「箱根駅伝2018」
・・・岩瀬 浩一(1966年入学)
今年の箱根駅伝は4連覇を目指す青学大、出雲駅伝の勝者東海大、全日本大学駅伝の勝者神奈川大が3強というのが大方の見方であったが、蓋を開けてみれば結果的に青学大の圧勝に終わった。
東海大は1区のエース關颯人(2年)が故障で交代し、5区の山登りを予定していた春日千速(4年)は故障の影響で4区に回ったが、代役の松尾淳之介(2年)と共に区間12位と低迷してシード権を確保するのが精一杯。神奈川大に至っては山藤篤司(3年)、鈴木健吾(4年)の1、2区でもくろんだ「ロケットスタート」が不発に終わると、その後は層の薄さを露呈してシード落ちする有様となった。
青学大の勝因は、全日本で3位に終わった頃は東海大から数名引き抜きたいなどと弱気だった原監督が、大会直前には一転して優勝を確信した発言に変わったことを見ても調整が極めて順調にいったのは間違いないが、何より原監督の選手の適性を見極め、的確な区間配置で持てる力を引き出す優れた管理能力と育成能力に依るといってよいだろう。
このことは、5000mの元中学記録保持者ながらそれ以降鳴りを潜めていた森田歩希(3年)がエース区間の2区で山梨学院大ニャイロと同タイムで区間賞を獲得し、全く無名で過去3大駅伝の出場経験もない林奎介(3年)が7区で区間新記録をたたき出して優勝の立役者となり、同じく全く無名の竹石尚人(2年)が起用に応えて初めての5区を無難に走り切ったことでも裏付けられる。
ところで箱根駅伝は関東学連のローカルイベントに過ぎず、全区間20q超かつ標高差800m以上を登って下るという特異な空間であって、有力学生ランナーの最終目的ではない筈だが、今年もTVで30%の視聴率を確保するなど抜群の人気と知名度ゆえに下記のような弊害が指摘されて久しい。
@学生の有力長距離ランナーの関東一極集中
A過度の走り込みによる故障の多発
B中距離ランナーの育成がおざなりになっている
C「箱根」が最終目的化し、燃え尽き症候群に陥るケースが少なくない
また長い歴史の中で「箱根」で活躍した後、マラソンランナーとして大成したのは瀬古利彦と谷口浩美だけという現実があり、「山の神」と称されマラソンでの活躍が期待された今井正人、柏原竜二も期待に応える事はできなかった。
このような状況に対し、東海大の両角監督はトラックで世界に通用するスピードランナーの育成を大目標としており、必ずしも「箱根」に照準を合わせてはいない。黄金世代と言われる2年生の關颯人、鬼塚翔太、館沢亨治、阪口竜平などは順調に成長を続けており、「箱根」には対応しきれていないものの、距離の短い出雲駅伝では圧倒的に強くトラックでも存在感を増しつつある。
青学大の原監督は「箱根」への対応を通じてのマラソンランナーの育成を目指している。その一方で、我が国屈指の人気コンテンツである「箱根」を活用して野球やサッカーに流れがちな有望アスリートを陸上界に引き込もうとする意図を持っており、一部で批判されている「マスコミへの過剰露出」はその一環であって、陸上をアピールする場と考えているという。
この二人の名伯楽によって育成された若きランナー達は今後どのように成長し、これからの陸上長距離界をどのように引っ張っていくのだろうか。
両監督の本当の勝負はこの先にあり、「箱根」の枠を超えた大いなる見どころとなるであろう。
(2018年1月12日受信)