「オランダ・ドイツでの生活から」・・・・・
横田 学(1994年入学)
一橋大学陸上競技部関係者の皆さん、如何お過ごしでしょうか。
平成10年卒 中長距離パート出身の横田です。
ニュースによれば、日本はだいぶ春めいてきて、というより、地域によっては初夏の陽気と伺っておりますが、私が現在住んでいるドイツでも、気温はまだ10度前後ですが、漸く春の季節となり、夜8時ぐらいまで明るくなってきました。
2010年に日本を出て早3年、その間、毎年、住む国を変えて今に至っています。アメリカ1年、オランダ1年、そしてドイツに住み始めて半年ほどになります。全部は到底書ききれませんので、今日はこの場をお借りして、現在住んでいるドイツでの生活についてお便りを差し上げたいと思います。
ドイツと言えば、皆さん、どういうことを思い浮かべますか? 森の国、ビールやソーセージ、車や製造業の国、真面目な国民性、荘厳な教会、そして、最近だと、サッカー・ブンデスリーガでしょうか。実は、私、オランダもドイツも、住むどころか訪れるのすら初めてで、そういうイメージしかありませんでした。
さて、まずイメージと一緒で苦労しているのが、食事です。ドイツ人は海産物をほぼ食べません。食べない訳ではないようですが、スーパーに行ってもそもそも売っていないことが殆どという事実が、その需要の乏しさを物語っています。是非、ドイツに来られる機会があれば、街中のスーパーを覗いてみて下さい、パターンの乏しさにびっくりされると思います。(笑)(でも、逆に、肉とチーズ、とくにソーセージの豊富な種類! のパターンの多さにびっくりされるかもしれません) また、日本やアジア諸国のように、街中で手軽に食べられるファーストフードが少ない上に、そういうドイツ風のメニューになりますので、食事にアクセントをつけるのが難しい国です。オランダも似たような食事環境なのですが、オランダ人は割と海産物を食べますので、スーパーで海産物も購入できる上、移民の国だけあって、オランダには様々な民族向けのスーパーが存在していますので、日本人には、食生活はオランダの方が向いているようには思います。
一見、イメージに近いようで違うのが国民性です。ドイツ人と一緒のチームで働いていますが、確かに彼らは真面目で、イギリス人やアメリカ人と働いていた時にたまに感じた、無理難題を吹っかけてくる(彼ら的には、それは共通認識のビーンボールであって、それをスタート地点と考える日本人の発想がおかしいと感じているようですが)ことはほぼありません。他にも、賃貸契約を結んだ際も、オランダでは数枚の契約書のみだったものが、こちらでは、契約書に加え、こういう風に生活するのが望ましい、といった、指針のような添付資料を渡されました。更に口頭での説明もありました。何をするにせよ、丁寧で真面目に接してくれるようには思います。その点、オランダ人は、イギリス人寄りですね。半面、仕事のテリトリーをきっちり区切って、テリトリー外のことは殆どやってくれない感じはあります。日本人の感覚では、頼まれれば、しょうがないなと思いつつもやってくれることが多いですよね。ドイツ人にそれは通用しないようです。半面、彼らは、上下関係を重視するようなので、ボスが言えば扱いは違ってくる印象はあります。ある例え話で、赤信号でも周りが渡っていれば渡るのが日本人、
赤でも現実的な危険がないなら渡るのがアメリカ人(余談ですが、私が住んでいた、アメリカ インディアナ州では、交通ルールとして、一定の条件下なら、赤信号でも車が渡ることが許されています)、赤は渡ってはいけな
いというルールが決められたら渡らないのがドイツ人、というのを聞いたことがありますが、日本人とドイツ人、似ているようで、違うなと思わされます。
意外だったのは言葉です。オランダでは殆どの人が英語を話しますし、多くの人がそれに加えて、何らかの外国語を習得しています。スーパー等、低賃金労働従事者でも英語で意思疎通できることが期待できますし、実際、オランダで英会話スクールなど見たことありません。一方、隣の国ですが、ドイツでは英語での意思疎通を期待してはいけません。感覚的には、半分以下の割合しか英語は話せず、スーパー等では全く期待できません。オランダ語とドイツ語を勉強していると、オランダ語は英語とドイツ語の真ん中あたりに位置し、その三カ国語は似ている部分が多いと感じるのですが、言語習得への姿勢は対照的です。ドイツでスムーズな生活をするには、割高なコストを払って英語のサービスを求めるか、ドイツ語を習得する努力が不可欠ですね。その点、旅行でフランスに行くと、話せるくせに話さない印象を時々受けますが、ここは違うと思います、申し訳なさそうに、英語は話せないと言われますので。(苦笑)
ドイツは経済大国ですし、ドイツ語は中東欧では共通言語として使われていたりしますので、オランダほどにはニーズを感じていないのかもしれませんね。とはいえ、英会話学校は駅前に散見されます、
ビジネス中心にニーズは日本以上にあるんでしょうね。ただ、大学以上の知識階層は普通に英語を含む、数ヶ国語ができる人が多いです。その点は、日本とは違いますね。
最後に、皆さんに体験をお勧めする生活イベントとして、クリスマスについて少し触れたいと思います。アメリカ、オランダもそうでしたが、年中行事には、キリスト教が色濃く反映されています。とはいえ、キリスト教といっても、ご存知の通り、カトリックとプロテスタント、その中でも幾つかに分かれていますから、西欧の中ですらイベントに臨む姿勢はかなり異なります。ここドイツでは、オランダやイタリア、スペイン(私がクリスマス前後に滞在した国々)と違い、クリスマスは、家族だけでなく、友人知人、更には周りとも一緒に祝う、とても重要な行事です。約一か月前から準備やイベントが開始され、多少小さい町でもクリスマスマーケットが期間中ずっと立ち、とても華やかなお店の飾り付けやグッズ、特有の食べ物を楽しむことができます。冬のヨーロッパは、日照時間が短い上に、寒さも厳しく、余り観光には向かない季節ですが、
もしヨーロッパでクリスマスを楽しみたい、というお考えがあれば、上記4か国の中で、ドイツは外さないことを是非お勧めします。
最後にこの場をお借りして、少し脱線して、個人的に2年間を振り返って良かったと思うことを
付け加えさせて頂ければと思いますが、この2年間は、日本ではあまり意識されない(と思われる)アメリカと大陸ヨーロッパの違いを意識する良い機会でした。
日本で、海外では、という論調は、一見そう見えても、実は、アメリカでは、ということが多々あるように思います。アメリカは移民国家であっても、その実はアメリカ人の国家であり、価値観の多様性は相対的に低いのではないかと感じます。人種の“るつぼ”と“サラダボウル”、似て非なるものです。少なくとも、アメリカと、それと異なる価値観を感じておくことは、自分の視野を狭めない上で意味があると思います。
(そういう意味では、欧州でなく、イスラム圏とか中国、ロシアという選択肢も非常に魅力的だと思います。)もちろん、アメリカは素晴らしい国だと思いますし、実際に留学してみて、その充実した学問環境は心底羨ましいと思いましたが、多様性を身に着けるためにアメリカに行く人が増えるというのは、マクロでは多様性を失っているように思います。
EUが理念として掲げる、“Harmonization”、ご存知の通り、EUは様々な問題を抱えていますが、我々は、
誰もが違うことを前提に存在を肯定され、誰もが欠けてはいけない社会を目指すべき、という理念は大変すばらしいものだと感じますし、そういう気付きの機会は大変良かったと思います。
纏めたつもりがだいぶ長くなってしまいましたが、
日本と似ているようで違う国、ドイツや欧州のイメージの参考になりましたでしょうか。ドイツは大きな国なので都市間の距離があるのですが、アメリカほどではもちろんありませんので、是非、近くにお越しの際はお声掛け頂けると嬉しいです。
ドイツの肉料理とビール・白ワインをご一緒できることを心から楽しみにしております。また、アメリカ、ヨーロッパでの留学や就職を考えている方がいらっしゃれば、分かる範囲で情報シェアできればと思いますので、何なりとご質問下さい。
まだ三寒四温の季節ではと思います、皆様、お身体、くれぐれもご自愛下さい。
写真1:米国でのFarewell party。筆者は後列中央。仲良くして頂いた米国人家族と、留学同期の日本人家族と共に。
写真2:オランダのキンデルダイクの風車群(世界遺産)。筆者が留学していたロッテルダムの近郊。
写真3:ドイツのケルン大聖堂(世界遺産)の前で開かれているクリスマスマーケット。
写真4:米国での卒業式のスナップ。筆者は左端。 一緒に写っているのは、クラスメートと米国人の先生。
写真5:オランダでの卒業式。後列左から2番目が筆者。いろいろな国籍のクラスメート達と。
(4月14日受信)